Iターン日記 (18)
ヘビの数 <下> 2002 10/19 某紙掲載
必要な「共存共栄の志」
さすがに田舎暮らし七年目ともなると、ヘビを見たぐらいでは騒がない。
春が巡ってヘビの初お目見えとなると、
それが季節感の感慨になるのだから、人は五感で環境に反応する。
一昨年、ウグイスの初音は三月六日、ヘビはちょうど一ヶ月後の四月六日に見た。
これが**村の我が家周辺の、私の感覚暦。
今年はウグイスが二月半ばに鳴いたから、異変の前ぶりだったのかもしれない。
これだけは勘弁してほしいと思う例のものが、
梅雨入り早々に最初の目撃をしてから、立て続けに現れたのである。
一ヶ月ほどは夜もおちおち寝ていられない感じになった。
初めは枕を抱えて寝る場所を移動したりもしたが、
どの部屋も安全ではということを思い知ってからは、
三種類の殺虫剤を駆使し、物入れの全てを大掃除した。
解決の根拠はなかったけれど、気休めにはなった。
村の中学校では毎年、蛍の時期に調査をしている。
Y子と出かけた私は、橋の欄干にもたれて暗闇に蛍の飛ぶ様を眺めながら、
ふさわしからぬ質問を理科の先生にしたのだ。
「ムカデの生態はあまりよく分かっていないらしいですね」
蛍の世界にいた先生は一瞬、キョトンとしたが、「家の下にいるぶんには、
シロアリなどの害虫を食べてくれるからいいんですがねえ・・」
物知りだとY子が絶大な信頼を寄せている理科の先生は、
さらにたっぷりと講義してくれた。
「必ず、つがいでいるんですよ。
一匹がいたら、もう一匹がどこかにいます。
とぐろを巻いて卵を抱えているんですが、さすがにぞっとします」
ムカデの撃退法を聞き出そうとした私の考えは甘かった。
頭の中には妄想が渦巻いて、ことあるごとに殺虫剤をまいて回り、
夜、布団に入ってはこのものが頭をかすめて振り払うのに往生した。
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ある種のいい加減さを持ち合わせていないと、
この方面での田舎暮らしはやっていられない。
飛んだり跳ねたりはったりする身近な生き物のたぐいと、
彼らだって生きているんだという「共存共栄の志」も必要である。
一緒に暮らしていけない者は、
町中でせいぜいゴキブリと付き合って暮らすしかない。
涼風が立つころには、彼らもおとなしくなる。
生命力にあふれている田舎暮らしは、ときに人を謙虚にもして、
自然の巡りに正直に生きているもののほうが、
自分よりうんと立派に見えたりもするわけで・・
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写真の蚊帳、テントのように布団下からすっぽり覆うタイプ、一人用や二人用がある。これを使い始めたら、やっと安らかに眠れるようになった。ただし、ベッドには使えないかも・・半年はこの蚊帳を使って和室で寝る、後の半年はベッドで寝る、というふうに幾つも部屋のある広い田舎の家ならではの暮らし方。樟脳をムカデが嫌うかどうかは・・・多分、気休め・・2024年4月記