I ターン日記 (10)

草取り <上>    2002 8/24 某紙掲載

やっぱり必要 草刈り機

私たちが引っ越してきたのは夏の七月二十六日だった。

入った集落は神社があるからだと思うが、「宮組」という名前だった。

翌日、自治会長の奥さんに案内してもらって

集落の二十数軒に挨拶回りをして歩いた。

多分その数日後に「道打ち」と言われる道路沿いの草刈りがあったはずだ。

鎌を持って参加したが、

くっついて回ればいいといってもらったので、なんとなく終わってしまった。

 

小学校からも草刈りの連絡をもらったが、結婚式があって参加できなかった。

まだ行っていない学校から

草刈りのお誘いが来るというのもなんだかおかしな話だが、

そのときは別段なんとも思わなかった。

 

つまり最初の夏は草刈りの脅威を知らないで過ごしたことになる。

次の春が来て主人は草刈機を買ったはずだ。

「やっぱり草刈機はいるでしょう」と主人は言ったが、

この報告を受けた実家の母はひどく心配げであった。

姉は主人の名前を挙げて

「草刈り機を持つ姿なんて想像できない」とけらけら笑った。

 

   ***** ***** *****

 

春先には「環境美化の日」があって、集落ごとにゴミ拾いをして歩く。

川の中のゴミもさらう。

「道打ち」は七月下旬、その後、川の中の草刈りもあってお盆を迎える。

八月の下旬は一斉に学校や保育園の草刈りがある。

子どもが保育園、小学校、中学校といっている親は、

ダブらないように調整してあるから、そのどれにも出かけることになって、

その上、職場周辺の草刈りもある。

お宮の総代になっていればこちらへも出かける。

 

春先から秋口にかけて、田んぼのあぜ、家の周辺、裏山の斜面と、

休む間もなく草刈りが追いかけてくる。

何もこう言ったからといって、

村人は土日を草刈りだけで過ごしているのではない。

春から秋はなんらかの行事が土日のたびにそこかしこ、

はっきり言えばびっしりと計画されているから、

草刈りと行事を縫うようにして土日は消化されていく。

 

我が家には田んぼと山はないから、年に数回、主人は草刈り機を持って出る。

村の人たちから見ればお遊び、子どもだましのような草刈り機の出番だが、

主人はこれで十二分に草刈りを堪能している。いや、させられている。

 

まあ確かに草刈り機を使おうとすると、

なかなかエンジンがかからないところを見ると、

草刈り機はもっとまじめに草を刈れと言っているのだろう。