草取り <上> 2002 8/24 某紙掲載
やっぱり必要 草刈り機
私たちが引っ越してきたのは夏の七月二十六日だった。
入った集落は神社があるからだと思うが、「宮組」という名前だった。
翌日、自治会長の奥さんに案内してもらって
集落の二十数軒に挨拶回りをして歩いた。
多分その数日後に「道打ち」と言われる道路沿いの草刈りがあったはずだ。
鎌を持って参加したが、
くっついて回ればいいといってもらったので、なんとなく終わってしまった。
小学校からも草刈りの連絡をもらったが、結婚式があって参加できなかった。
まだ行っていない学校から
草刈りのお誘いが来るというのもなんだかおかしな話だが、
そのときは別段なんとも思わなかった。
つまり最初の夏は草刈りの脅威を知らないで過ごしたことになる。
次の春が来て主人は草刈機を買ったはずだ。
「やっぱり草刈機はいるでしょう」と主人は言ったが、
この報告を受けた実家の母はひどく心配げであった。
姉は主人の名前を挙げて
「草刈り機を持つ姿なんて想像できない」とけらけら笑った。
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春先には「環境美化の日」があって、集落ごとにゴミ拾いをして歩く。
川の中のゴミもさらう。
「道打ち」は七月下旬、その後、川の中の草刈りもあってお盆を迎える。
八月の下旬は一斉に学校や保育園の草刈りがある。
子どもが保育園、小学校、中学校といっている親は、
ダブらないように調整してあるから、そのどれにも出かけることになって、
その上、職場周辺の草刈りもある。
お宮の総代になっていればこちらへも出かける。
春先から秋口にかけて、田んぼのあぜ、家の周辺、裏山の斜面と、
休む間もなく草刈りが追いかけてくる。
何もこう言ったからといって、
村人は土日を草刈りだけで過ごしているのではない。
春から秋はなんらかの行事が土日のたびにそこかしこ、
はっきり言えばびっしりと計画されているから、
草刈りと行事を縫うようにして土日は消化されていく。
我が家には田んぼと山はないから、年に数回、主人は草刈り機を持って出る。
村の人たちから見ればお遊び、子どもだましのような草刈り機の出番だが、
主人はこれで十二分に草刈りを堪能している。いや、させられている。
まあ確かに草刈り機を使おうとすると、
なかなかエンジンがかからないところを見ると、
草刈り機はもっとまじめに草を刈れと言っているのだろう。