I ターン日記 (8)

大好きなおじさん <中>   2002 8/3 掲載

ゴミ処理に追われて

引っ越してきたひと夏中、私はゴミ処理と格闘した。

おおげさでもなんでもない。

頭の中はほんとにゴミのことでいっぱいだったのだ。

おじさんが言ったゴミ処理は経験したこともなく、

想像してもちっとも具体的ではなかった。

 

ウッちゃんは、作ってくれたドラム缶のゴミ焼き器を

家の前の小さな川の土手に設置してくれた。

日中、夏の太陽に照りつけられて土手の草は乾燥しきっている。

小さな火でも飛んだらあっという間に広がっていくからと、

実家の母にうんと脅かされた。

 

二、三日おきに五時起きして、

蛇がいるからとこれも母に脅かされて軍手にジーンズ、長靴をはき、

水を入れたバケツを二つ三つ用意してゴミを燃やしたのだ。

燃やしている間はずっと火を見ていた。

 

朝六時前にうちの家の前を通る人がいた。

『レストラン』のママ。

その当時は近くの会館に『レストラン』があった。

「大丈夫でしょうか、こんなに火が出て」と、

ドラム缶から勢いよく上がる火に恐れをなした私が話しかけても、

「セワナイ、セワナイ」と言って手を振りながらママは通り過ぎる。

お世辞にも立ち止まって様子を見るふりのひとつもない。

 

このころ、何かにつけて思ったものだ。

「田舎の人って、奥ゆかしいのかなんだか知らないけれど、

こちらは分からないんだから手取り足取り教えてくれたっていいじゃない」

これは逆恨みというものだ。

今になって思えば、

ゴミ焼きなんて教えるもなにもあったもんじゃあなかったのだ。

 

   ****** ***** *****

 

「あそこの海に潜ればサザエなんていくらでも採れる。

女房なんかサザエはもう飽きたから、採ってくるならアワビにしろって言いますよ」

以前、ある会合で楽しそうに話したUターンの男性に、

私は思わず聞いてしまった。

「で、そのサザエの殻はどうやって捨てるんですか?」

「裏の山に放り投げるんです」

なるほどすばらしい。

私の問いに反射的に答えてくれたようだったが、後で不思議に思ったかもしれない。

 

玄関先に届けられた白菜の外葉や、魚の頭はどう捨てたらいいものか、

ああでもない、こうでもないと考えている女は、

彼には想像できなかったろう。