大好きなおじさん <上> 2002 7/27 某紙掲載
ゴミはヤレンモンだけ
引っ越してきて一週間後のことだった。
テレビがちゃんと映らないので、
以前電気店をしていた人が村にいると聞いて、来てもらった。
無事にテレビは映って、麦茶を飲んでいたらそのおじさんはこう言ったのだ。
「あんた、この間、エットのゴミを出しんさったろう」
エッ、このおじさん、どうして私が出したゴミのことを知っているんだ。
「わしはゴミの収集もやっとるで。スタンドの横にエット出とったケエ、
役場にあのゴミはドガアするだあ、と言うたら、
『そりゃあ、今度来んさったSさんが出しんさったろうケエ、
今日のところは持っていってやんさい』と言うケエ、持っていっただが」
「だって、引っ越して来たばかりで、ゴミがいっぱい出たんですよ」
「ナンボいっぱいだゆうたケエ、燃えるモンは燃やす、畑に捨てられるモンは捨てる。
ヨーニ、ヤレンモンだけ、ゴミに出すもんだあの。」
燃やすとか、畑に捨てるといったゴミ処理など思いつきもしなかった私は、
初めて会ったおじさんに食い下がった。
「燃やすって、どこでどう燃やすんですか。
畑に捨てるって、どこの畑に捨てるんですか」
「そりゃあまあ、燃やす場所をつくってだな、ムニャムニャ」
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七年前、その当時は東京でもゴミ出しはさほど厳格ではなかった。
スーパーの袋で集積場に出しても収集車は持っていってくれた。
私は慌てた。
お昼を食べに帰った主人をつかまえて、
「誰が出したゴミだか、役場にまでわかるのよ。
これって怖くない?」と訴えた。
主人はうーんとうなって、
「ウッちゃんに聞いてみたら?」と言うしかない。
家の隣にはガソリンスタンドがあって、
そこのウッちゃんは私たち家族の頼りの綱だった。
みんなからTちゃんと呼ばれていることは後でわかったが、
私たち家族では勝手にウッちゃんと呼んでいた。
ウッちゃんは、夕方スタンドの裏から、
「はよお洗濯物をしまわにゃあ、ヨーニ湿ってしまうで」と、
私に声をかけてくれるのだった。
山間の村では日が傾くとあっという間に露が降りて、
せっかく乾いた洗濯物も湿ってしまう。
そんなことも当時の私は知らなかった。
早速泣きついた私に、ウッちゃんは仕事の合間をみて
ドラム缶でゴミ焼き器を作ってくれた。
灰を落とす仕掛けがしてあった。